第39回清興展受賞作品講評

講評：理事長　��山 知也

内閣総理大臣賞　「色とり鳥」　代島 千鶴　洋画

極彩色の大きなオームを３羽描いている。
１羽は一番奥に此方を向いて止まり木にとまっている。
中程の1羽は横向きに右下に首を傾けこれもとまっている。 そして一番手前のオームは羽を広げ、まさに止まり木にとまらんとする後ろ姿である。
そうしたそれぞれのポーズのオームの描写は、鍛えてきた日本画のデッサン力が抜群であることを明確に表している。
また細部に目を凝らすと、オームの輪郭線は繊細な線で、アクセントをつけるように部分部分に引かれている。実にデリケートであり強い線の表現である。空間に見られる絵の具の『たらしこみ技法』は画面が神経質になることを巧みに回避して見事である。
強い3原色を他の色彩で調整しつつ、心地よい調和の画面構成は知的であり素晴らしい。

参議院議長賞　「待春渓谷」　五月女 昌弘　洋画

まさに画題が示す如しの作品である。
渓谷の木々には、新芽の兆しもまだなく、森には雪も積もっている。しかしあたりは雪解けが始まる冷たいが瑞々しい独特の空気感が見事に表現されている。
空から差し込む一筋の太陽の日差しが、より一層効果的である。もうすぐ春がやって来るまさに『水ぬるむ』そのものの風景を五感全て使い描いて見事である。
また、上流で消える小川の地点は、まさに『黄金分割点』であることは、単なる甘い抒情ではない知性の裏付けも感じさせる秀作である。

衆議院議長賞　秋日和　江口 光興　洋画

風景画の写実を追及している作家である。 横長の画面を横に空・山・稲穂みのる田と道・に３等分し、それぞれ秋の空気色で表現している。
手前の道や稲穂の緊密な描写に比べ、山から空へ次第に柔らかな表現となって奥行きと秋の空気の重なりを感じさせ、写真的な単なる写実とは異なる重厚さがみごとである。
しかも退屈でばらばらになりがちな３等分の画面に、画面下から農道が山に向かい、それをリレーするかの様に山から空に昇っていく野焼きの煙でつなぎ統一し、縦横の広がりをも表現している。誠に知的な配慮ある秀作である。

文部科学大臣賞　「ペチニア日和」　畑 昌子　アクリル画

抽象作品を長く追及している作家である。 何やらぼんやりとした『日和』という言葉のイメージとピッタリな、ほのぼのとした白い丸い形はペチニアであろうか。
画面下約半分のブルーの矩形で区切られた空間とその中上方の赤い矩形それぞれにその丸い形が描かれている。やがて青の矩形を縁取る緑の線は上方に消えながら白い丸い形も消えていくのであろうか。
ペチニアの花は４月から１０月ごろまで咲くのであるが、青い矩形は冬から春、赤い矩形は夏、そしてやがて秋から冬へと季節が移ろうペチニアの花を表しているとも解釈出来る。
抽象を読み解く楽しさを改めて教えられる傑作である。

外務大臣賞　「サルナート仏趾」　酒井　淳　洋画

サルナート仏教遺跡を背景に３人の現地の女性を描いている。
サルナートはブッダガヤで悟りを開いた釈迦が最初に説法を行った「初転法輪」の地である。２５００年以上の年月を超え、今や遺跡は、画面にも描かれている様に２つのストゥーパ（仏塔）を残すのみである。
画面はモチーフの面に沿って主に横にひかれたタッチが的確である。さらに３人の女性のポーズや視線を辿ると、頭に籠を担いだ赤い衣装の女性にいざなわれ彼女が主役であることが判るように知的に構成され見事である。
深い精神的歴史を持つ遺跡を背景に、その重みに負けない強さで主客がはっきりと色彩と配置により描かれた秀作である。

東京都知事賞　「紅　霞」　田畑 久美子　洋画

花々を前に空を見上げる女性が佇んでいる。その空には虹がかかり、星の形が飛んでいる。さらにその星型は女性の衣装にも見られる。
何とも不思議な作品である。その色彩感覚は独特な個性が光る。さらにデッサン力や表現力は確かなものがある秀作である。
作者によると亡くなった友人の夫のレクイエムのための作品であるという。その思いが暗くじめじめとした感傷的な表現ではなく、明るく現実感を超え昇華された表現をとることにより、逆に深い思いが内包され大変見事な秀作である。

東京都議会議長賞　「私の菜園」　兵庫 弘美　ボタニカルアート

キャベツ１個を堂々と正面から見据え丁寧に、細密に描いている。
その存在感は、キャベツの重量感やみずみずしさ、さらには青臭い香りまで感じさせ見事である。その結果、キャベツで切り取られた余白である「白」の空間がとても清潔で美しい。
さらにキャベツにはそれを食べる幼虫が描かれ、空間にはこれから卵を産み付ける準備の最中かのような２匹の蝶が飛び楽しいアクセントを加えている。
小さな世界の中の時間まで描こうとする試みの意欲作である。

モンゴル大使館賞　「ギャラリー」　保高 達朗　洋画

画題のごとく、まさに「ギャラリー」入り口付近の光景が描かれている。 ウィンドウに映る人物とその実際の人物との『虚と実』関係を絵画的なテーマとして制作を続けている作家である。
たぶんではあるが、この作家の究極の絵画的理想形は室内の様子など描かなくても、実体と映る形や影のみで絵画として成立させたいのでは…、と思はせる大きな可能性を感じさせる秀作である。

清興大賞　「白い孔雀」　浦野　晶子　日本画

動物をテーマに描いている現在数少なくなった作家である。
白孔雀という神秘的な存在と美しさをより際立てる、実角（白孔雀）と補角（空間）が入れ替わる様な空間処理と色彩は見事である。青口緑青、黒群青、紫紺末、黄土等々などの岩絵の具を複雑に駆使した美しさがいかんなく発揮され重厚な画面となっている。
さらに孔雀の描写は、日本画でいうところの単なる対象を図鑑的に写実した『悪写実』に陥っていないのは、作者の対象への愛情ある眼差しが画面全体から訴えているからである。「清興大賞」にふさわしい秀作傑作である。

清興優賞　「ダリア満開」　平沢 みどり　ボタニカルアート

満開の色とりどりのダリアでむせ返る様である。 その重厚かつ甘美な色彩は堂々たる存在感である。
画面下３分の２には、ダリアの花を集めその補色の緑色の葉を大切にしながら、画面は乱れなく表現されている。上３分の１は花の頂点にいたる次第に細く小さくなるダリアの葉が繊細に表現され、まるで大交響曲のようである。
文学的、物語的な要素を極力なくし、真正面から描き切った「ボタニカルアートの魅力とはこのようなものだ」という事を改めて教えられる秀作である。

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