第37回清興展受賞作品講評
講評:理事長 髙山 知也
内閣総理大臣賞 「エコ・コスモス」 橋本直一 洋画
抽象画を長く描いてきた作家である。
その中でも今回の作品は年齢を感じさせない実に若々しい感性が画面に溢れている見事な作品である。
段ボールを用いた黒の空間に構成された鮮烈な色彩に塗られた大小の円や四角形は、
段ボールの凸凹がその原色を和らげ、
さらに単調さを破るマチエールを造り、美しく楽しい見事な調和を見せている。
そうした効果が緻密に計画されているのだが、
見る者には「絵画表現とは何事にも囚われず、自由に楽しく、時に大胆に行うものである。」
事を再認識させる秀作である。
参議院議長賞 「錦秋渓谷」 尾高康之 洋画
秋の紅葉の渓谷が克明に描写されている作品である。
さらにこれを描いている時の作者の「実に美しいなあ~!」という心の声が聞こえて来る様な実感溢れる見事な作品である。
大きな縦長の空間の中に、紅葉と岩は半々になりそうでならず、それぞれがお互い互角の存在感の中で向き合っている。
正確なデッサン力により実に緊張感のある空間を構成している。
対象に対する深い感動を誠実に描く喜びが、素直に伝わる秀作である。
衆議院議長賞 「菊、ブーケのように」 澤田 秀子 ボタニカルアート
様々な色と形の菊を題名のように、まるでブーケのように縦長にまとめ美しく構成して描いている。
緻密な描写は、みずみずしい色彩によりさらに香りまで表現されているようである。
菊の様な昔からよく知られた花を描くことは通俗的になりやすく大変難しいのであるが、
下方の枯れ始めた葉を描くことにより、一層生き生きした菊の姿や美しい色彩を引き立たせ、
その生命感まで感じさせる見事な作品である。
文部科学大臣賞 「赤いドア」 束原 早智子 ペン画
石畳の道が左にカーブし、両側の石造りの建物と共に消える古典的なローマン主義の構図である。
その美しい町並みはヨーロッパの特徴の一つである。
こうしたモチーフや構図はよくある絵葉書的通俗性に流れがちである。
しかしこの作品は建物にグリーングレイの色彩が比較的多い空間の中で、
その補色である題名の赤い扉は一際印象的であり画面を引き締め大変効果的である。
さらに正確なデッサンは甘い旅情に流され過ぎず知的に表現され見事である。
外務大臣賞 「ペインティング」 セラフィーナレンツ 洋画
ドイツの現代彫刻の女流作家である。
ミュンスター芸術大学彫刻科に学び、ベルリン在住で制作活動を続けている。
個展・グループ展・受賞多数。ベルリン総合大学芸術学部講師。小田原須藤美術館にアーチスト・イン・レジデンスで来日し個展開催。
立体作品の作家であるが、水彩・アクリルなどの平面作品も軽やかで楽しく、また繊細な美しさが溢れ素晴らしい。
『創造性』というヨーロッパの芸術の伝統的本質を軽やかに示すこれら平面作品は、彼女の立体造形制作の原点を強く感じさせる秀作である。
東京都知事賞 「遠くへ行きたい」 畑 昌子 洋画
画面は大胆に中央で右上から左下にかけて太いピンクの直線で左右に分割されている。
右側には抽象化された海であろうか波に大きな船の舳先と線描された小舟が浮かび、伝統的な白い千鳥1羽が飛び立つ様子がクローズアップされ大きく描かれている。
左側には抽象化された雲の中に黒や白の千鳥の群れの様子が3つに区分され描かれている。
下から上に順々に鳥は高みに向かい飛んでいるのである。
そうした作者の精神的上昇への思いを鳥に仮託し、具体的に描いているのであるが、
それを一見抽象画の様に描くことにより逆に形なき心や精神の具象化という難しい表現に挑戦する勇気と実行は賞賛に値する見事な作品である。
東京都議会議長賞 「和鳴」「荷香」 張 継光 水墨画
「和鳴」
上海美術家協会会員・個展グループ展多数・受賞多数の作家である。昨年に続き出品している。
扇形の画面に淡墨により墨のにじみと擦れを巧みに操り、木の枝の重なりを巧みに表現している。
その中央に小鳥が集まって語り合っているかのように囀っている。
明るい日差しの光が洋画的な陰影ではなく描かれ、小鳥の囀りまで聞こえてきそうな、まさに気韻生動、堂々たる秀作である。
「荷香」
この作品も扇形の中に描かれているが、墨だけでなく彩色がされている。
これも墨と絵の具と水と用紙が一体となって、巧みな表現がなされている。
蓮池の一隅の蓮の花と水面の漣は巧みな線描で彩色され、水草はその補色で緑に彩色され美しい。
この作品も光と香りと温度が単なる写実ではない中国文人画の伝統に根ざしたリアルにあることが感じられ、
そこから植物世界の生命感まで表現している見事な作品である。
モンゴル大使館賞 「金とプラチナのかけらシリーズ青」 浅野 隆 ミクストメディア
近年この様なシリーズで自己の内的世界の表現を追求している。
モダンな抽象表現であるが、どこか日本的、古典的な琳派も感じさせる。
それは大宇宙なのか、極小の素粒子の世界なのか、多分それを思う作者の心の世界なのであろう。
それを物質化し表現しようという壮大な実験といえよう。
それ故作者の遺伝子の中に存在する日本的伝統なるものが、滲んでいるとも言えよう。
大きな可能性を強く感じさせる秀作である。
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