第45回清興展受賞作品講評

講評：理事長　��山 知也

内閣総理大臣賞　「ヒスイカズラと姫芭蕉」　菊池 有子　ボタニカルアート

美しい水色白群のヒスイカズラの花が３本垂れ下がっている、そしてこれから咲く蕾の房をその２本の花房と残り１本の間に挟んで並んでいる考えられた配置である。
作品の右肩にはその花房を下げている茎の蔓が上に向かい伸び、葉が３、２、１の絶妙な間合いで配置されている。
そして作品の下部分には朱色の姫芭蕉の花が２本配置している。
これが１本なら寂しくまた３本であると、赤い花とその補色である緑の葉の対比が、くどくなってしまう恐れからかとも推察される。
一見すっきりと描かれたかの様に見える画面に見えるのであるが、その構成はしっかりとした知的配慮により描かれている本会最高賞にふさわしい傑作である。

衆議院議長賞　「家路」　那須 斐子　洋画

学校の制服か？白い帽子に白い服を着た少女と付き添いの母が夕焼けに染まる空の下、家路に付いている光景である。
遠くには町並みは夕日の中に沈んでいる。母と娘はこれからの人生行路を思うかのように、同じ方向を見詰めている。
ピンクの勝った夕空や地平線近くの空のオレンジ色に母のブルーの服の補色対比が清潔で美しい。
なにか遠い昔に遥かな未来を思う親子の家路という、これまでの路とこれからの路を優しく感じさせる、抒情溢れる傑作である。

参議院議長賞　サンライズ（日の出）　浅野　隆　ミクストメディア

ブルーとイエローとゴールド（金箔）で描かれた半抽象平面作品である。 この作品はこの作家の続けているシリーズの一つである。
今回は多弁にならず、これ以上削ることが出来ないぎりぎりの要素で描かれた、傑作である。
簡潔かつ明瞭、色彩はブルーとイエローという補色対比が美しく、強い表現となっている。
余談ではあるが使用された金箔も『青金箔』という文字の中でも補色対比となっていて、おもしろい。

文部科学大臣賞　「花衣」　中村 悦子　刺繍

一貫して刺繍作品を出品している作家である。
書も本格的に研鑽しているので作品に描かれている刺繍の文字も、本格的なもので素晴らしい。
この作品はブラースの形に切り取った白い布に、色彩を中心に季節の花を刺繍し、それを１４枚配置しそれぞれにその花のあえて和名（例えばポピーを雛罌粟の様に）の札をこれまた刺繍している作品である。
色彩の配置バランスも良く、細やかな配慮がそこここに見え、可愛らしく美しい傑作である。

東京都知事賞　「賑わいのある路地」　谷村 あつ子　日本画

遠くにタワーが見え、電車の通過しようとしている踏切付近の路地の光景である。
画題からも人々が行き交う、ほのぼのとした日常の賑わいである。
踏切が開くのを待つ車や人々、赤提灯のぶる下がる店で焼き鳥か何かを買っている親子、おしゃべりしながら歩いている女学生２人、立ち止まっている女性や犬を連れた老人などの描写に、この作家の優しい視線が伝わってくる。
それは、人物をはじめ、ビルや家、電柱や電車などのモチーフを定規で引いたような正確でかっちりとした輪郭線ではなく、心のこもった優しく人間味のこもる素晴らしいデッサン力の賜物であるということである。
愛情溢れる視線で描かれた抒情豊かな秀作である。

東京都議会議長賞　「都会のシグモイド」　八子 勇治　ペン画

シグモイドとはギリシャ文字のΣ由縁のS字カーブのことである。 この形が画面の中心的構図となっている作品である。
ペンで精緻に描かれた、JRやその他の電車が行き交う線路を上空から描いた秀作である。
その描かれた線路やそこを走る列車がまさにジグモイド曲線（S字カーブ）なのである。
作者の、この作品を描こうとした一番の最大の動機と興味がダイレクトに伝わる秀作であり、その驚くべき緻密さと精緻さに脱帽の傑作である。

駐日モンゴル国大使館賞　「丸い緑彩」　渡辺 佳英　写真

目の錯覚かと思わず一歩前に出てしまう、美しく幻惑される画面である。
写真でしかこの描写はかなわない秀作である。
暗い寺院の窓中から緑滴る外をみた時の美しい錯覚をとらえた作品である。
円形の窓と其外の光景は寺院内の黒い暗さと床の暗い黒さにより、実景と反射が一体となり、円相の連続を描き美しい。
作者の驚きと感動がダイレクトに伝わる傑作である。

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